「障害者をどう活かせばいいのか分からない」
企業から、そんな声が聞かれることがあります。
けれど、中途障害者として働いてきた私は、ときどき逆の問いを持ちます。
本当に難しいのは、障害者なのでしょうか。
それとも、
「決められた働き方に人を合わせること」には慣れていても、「人に合わせて仕事の仕組みを変えること」に慣れていない組織なのではないでしょうか。
私は、こちらの問いの方が、これからの日本企業にとって重要だと思っています。
2026年7月、民間企業の障害者法定雇用率は2.7%へ引き上げられました。
しかし、厚生労働省が示している直近の法定雇用率達成企業の割合は46.0%。同時に厚生労働省自身も、人数だけではなく、障害のある人が能力を発揮し、雇用の安定につながる「雇用の質」が重要だとしています。
つまり、これから企業に問われるのは、
「何人雇ったか」だけではありません。
問われるのは、
違う条件を持つ人が入ってきたとき、その人の能力を成果へ変えられる組織なのか。
私は、障害者雇用とはその会社の**「組織適応力を測る経営テスト」**だと考えています。
—
障害者になって分かった。「仕事ができない」と「同じ働き方ができない」は違う
中途障害者になるということは、それまで当たり前だったことが、ある日から当たり前ではなくなることでもあります。
以前なら普通にできた動作に時間がかかる。
移動方法が変わる。
疲れ方が変わる。
仕事をするときにも、以前と同じ方法では難しいことが出てくる。
けれど、ここで非常に重要なことがあります。
「以前と同じやり方ができない」ことと、「価値を生み出せない」ことは、まったく同じではありません。
私は、この違いを障害を経験して初めて深く理解しました。
例えば、100の仕事があるとして、そのうち20のやり方が難しくなったとしても、残りの80まで失われたわけではありません。
さらに、仕事そのものを再設計すれば、80だったものが90になることもある。
ITを使う。
役割を分ける。
情報を見える化する。
曖昧な指示を明確にする。
得意な領域に仕事を再配置する。
評価基準を成果に合わせる。
そうすると、「障害があるからできない」と思われていた問題の一部が、実は仕事の設計の問題だったと分かることがあります。
これは障害者だけの話ではありません。
—
育児、介護、病気、高齢化。これから「標準的な社員」は減っていく
子どもの送り迎えがある社員。
親の介護をしている社員。
病気から復職した社員。
体力が変化してきた高齢社員。
文化や言語の背景が異なる外国籍社員。
仕事に対する価値観が以前とは異なる若い世代。
こうした人たちは、能力がないわけではありません。
ただ、
「会社が想定してきた標準的な働き方」と条件が違う。
それだけの場合があります。
そして日本企業は、これからこの問題から逃げられません。
厚生労働省の2025年版労働経済白書では、約71%の企業が事業継続に必要な人手、約73%が新規事業に必要な人手に不足感を抱えているとされています。さらに、生産年齢人口は2020年の約7,500万人から2040年には約6,200万人まで減少すると見込まれています。
これからの企業は、
「会社の働き方に100%合わせられる人だけを採る」
という経営を続けることが、ますます難しくなります。
だからこそ問われるのです。
人を選び続ける会社になるのか。
それとも、人を活かせる会社になるのか。
—
障害者雇用がうまくいかない会社には、共通する構造がある
障害者雇用について議論すると、本人の能力や障害特性に焦点が集まりがちです。
もちろん、本人にできること・できないことがあります。
当事者側にも、自分の状態を理解し、必要な配慮を伝え、可能な範囲で能力を高めていく責任があります。
しかし、それだけでは説明できない問題もあります。
私が特に大きいと思うのは、会社が「人」ではなく「既存の型」を基準に仕事を設計していることです。
「この仕事はこうするもの」
「この部署ならこれくらい残業できて当然」
「管理職ならこの働き方ができなければならない」
「障害者にはこの程度の仕事を任せておけばいい」
こうした前提が固定されてしまうと、人の可能性より先に「型」が存在するようになります。
そして型から外れた人が現れると、
「本人をどう直すか」
という発想になります。
しかし強い組織は逆です。
本人を変える前に、仕事の構造を疑う。
ここに大きな違いがあります。
—
本当に強い会社は「特別扱い」が上手いのではない
障害者雇用がうまくいっている企業というと、「優しい会社」を想像するかもしれません。
私は少し違うと思っています。
本当に強い企業は、
人に優しいだけではなく、人を見る解像度が高い。
何ができるのか。
何が難しいのか。
どこまでなら任せられるのか。
何を支援すれば成果が上がるのか。
本人は何を目指しているのか。
そして成果を出したら、どう評価するのか。
ここまで見ています。
合理的配慮も同じです。
合理的配慮とは、仕事を免除し続けることではありません。
成果を出すために存在する障壁を取り除くことです。
配慮によってスタート地点を整え、その先では一人の社員として期待する。
私はその両方が必要だと思っています。
障害者にも、
「配慮される権利」だけではなく、「期待される権利」がある。
仕事を任される。
失敗する。
学ぶ。
成果を出す。
評価される。
昇格する。
給与が上がる。
キャリアを選ぶ。
そこまで含めて初めて、障害者雇用は「雇用」になるのではないでしょうか。
—
「不自由な自由」が教えてくれたこと
障害を持ってから、私は以前より不自由になった部分があります。
しかし、不思議なことに、その不自由さによって見えるようになった自由もあります。
以前は、
「会社とはこういうもの」
「仕事とはこうするもの」
「みんなと同じようにできなければならない」
という前提を、疑うことすらなかったかもしれません。
しかし、同じやり方ができなくなれば、考えざるを得ません。
本当にこの方法でなければならないのか。
すると、「当たり前」とされていたものの中に、意外なほど多くの思い込みがあることに気づきます。
私はこれを、ある意味で**「不自由な自由」**だと思っています。
身体的な自由を失ったからこそ、
「働き方は一つでなくていい」
という自由が見えてくる。
この感覚は、これからの企業にも必要ではないでしょうか。
—
障害者が働きやすい職場は、結果として多くの人が働きやすくなる
指示が明確である。
仕事内容が整理されている。
成果基準が見える。
相談先が決まっている。
必要な情報が共有される。
属人的な仕事が減っている。
体調や事情を相談できる。
得意不得意に応じて役割を調整できる。
こうした仕組みは、障害者だけを助けるものではありません。
新人にも有効です。
育児中の社員にも有効です。
介護中の社員にも有効です。
外国籍社員にも有効です。
復職者にも有効です。
そして、管理職自身の負担も減らします。
つまり、
障害者雇用のために組織を整えた結果、組織全体のマネジメント品質が上がる。
ここに障害者雇用を経営戦略として考える価値があります。
経済産業省もダイバーシティ経営を、多様な人材を活かし、その能力を最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションや価値創造につなげる経営と位置づけています。
これは「社会貢献をしましょう」という話ではありません。
競争力の話です。
—
これからの競争力は「優秀な人を採れるか」だけでは決まらない
これまで企業は、
「優秀な人材を採用する」
ことに大きな力を使ってきました。
もちろん、それはこれからも必要です。
しかし人手不足が構造化する社会では、それだけでは足りません。
これから重要になるのは、
採用した人を、どこまで活かせるか。
です。
100点の人材を探し続ける会社より、
70点に見えた人材を90点、100点へ変えられる会社の方が強い。
育児で時間制約がある社員。
身体的制約がある社員。
介護を担っている社員。
日本語が第一言語ではない社員。
高齢になって体力が変化した社員。
こうした人材を、
「条件が合わない」
として排除する会社と、
「どうすれば能力を活かせるか」
を考える会社。
10年後、大きな差が生まれているのではないでしょうか。
—
障害者雇用は、その会社の「弱点」を可視化する
私は、障害者雇用には少し特殊な力があると思っています。
組織の弱い部分を、非常に分かりやすく表面化させる力です。
指示が曖昧なら、曖昧さが問題になる。
評価基準が曖昧なら、評価で問題になる。
仕事が属人化していれば、配置で問題になる。
管理職にすべて丸投げしていれば、支援で問題になる。
キャリア制度が画一的なら、昇格で問題になる。
つまり障害者が問題を起こしているのではなく、
障害者が入ったことによって、もともと存在していた組織課題が見えるようになっただけ
というケースもあるのです。
これは経営者にとって、悪いことではありません。
むしろ貴重です。
組織の弱点が、早い段階で見えるのですから。
—
「障害者を活かせない会社」が失うのは、障害者だけではない
ここが、この問題の本質です。
障害者雇用がうまくいかなかったとします。
一人の障害者が離職する。
それだけなら、一人分の問題に見えるかもしれません。
しかし原因が、
「柔軟に仕事を設計できない」
「異なる働き方を認められない」
「成果より勤務形態を評価する」
「管理職一人に対応を任せる」
「キャリアの選択肢が一つしかない」
という組織構造にあるなら、同じ問題は別の社員にも起こります。
育児を始めた社員にも。
介護が始まった社員にも。
病気になった社員にも。
年齢を重ねた社員にも。
新しい価値観を持つ若手にも。
だから私は思います。
障害者雇用で起きている問題を、「障害者だけの問題」にしてはいけない。
そこには、これからの日本企業が直面する問題が、少し早く現れているのです。
—
経営者に問いたい。「人に仕事を合わせる」ことは、本当に甘えなのか
日本では、ときどき、
「会社に人を合わせるのが仕事だ」
という考え方があります。
その考え方をすべて否定するつもりはありません。
組織で働く以上、一定のルールも必要です。
本人の努力も必要です。
会社が何もかも個人に合わせることも現実的ではありません。
しかし同時に、
変えても成果に影響しないものまで守る必要があるのでしょうか。
朝9時にいることが成果なのか。
全員同じ場所で働くことが成果なのか。
同じ手順で仕事をすることが成果なのか。
同じキャリアを歩むことが成果なのか。
経営者が見るべきなのは「昔からそうしてきたか」ではありません。
それによって企業価値が生まれているか。
私は、そこだと思います。
—
障害者雇用は「福祉のテスト」ではなく「経営のテスト」である
障害者に優しくできる会社か。
もちろん、それも大切です。
しかしこれから問われるものは、もっと大きい。
異なる条件を持つ人を、成果につなげられる会社なのか。
これは、
人材配置。
評価制度。
管理職育成。
業務設計。
組織文化。
DX。
キャリア形成。
そして経営そのものに関わります。
障害者雇用率2.7%という数字は、その入口にすぎません。
本当に見るべきなのは、
採用した人の可能性を、会社がどこまで引き出せたか。
です。
—
人手不足時代に必要なのは、「人を選ぶ力」より「人を活かす力」かもしれない
日本はこれから、今より人材が貴重になる社会へ進んでいきます。
そのとき企業が競い合うのは、
優秀な人材を奪い合うことだけではないでしょう。
一人ひとりの違いを理解し、その能力を価値へ変換する組織能力。
これこそが、企業の競争力になっていくはずです。
障害者雇用は、その未来を先取りしています。
だから、私は障害者雇用について書きながら、障害者だけについて書いているつもりはありません。
障害者雇用を通して見ているのは、
「これからの会社は、人をどう活かすのか」
という問いです。
中途障害者になったことで、私は「できなくなる」という経験をしました。
しかし同時に、
人間の価値は、できないことだけでは決まらない
ということも知りました。
そして企業も同じです。
「この人には何ができないのか」を探す組織より、
「この人なら、どうすれば力を発揮できるのか」を考えられる組織。
そんな会社が人材を残し、人を育て、変化に強くなっていく。
私はそう考えています。
障害者雇用がうまくいく会社とは、
障害者に特別に優しい会社なのではありません。
違いが現れても、組織そのものをアップデートできる会社です。
そして、その力こそが、人手不足時代に最も必要な「組織の適応力」なのではないでしょうか。
—
最後に、経営者・管理職の方へ
もし明日、
優秀な社員が病気になったら。
親の介護が始まったら。
子育てで働ける時間が変わったら。
年齢とともに体力が変わったら。
それでも、その社員を戦力として活かし続けられるでしょうか。
もし答えに迷うのであれば、
障害者雇用は一部の人のためのテーマではありません。
すでに、あなたの会社の経営課題です。
人が会社に合わせ続けなければ成立しない組織から、
人が変化しても成果を生み出せる組織へ。
障害者雇用から始まる組織改革は、
障害者だけの未来を変えるのではありません。
そこで働く、すべての人の未来を変える可能性があります。
障害者雇用を考えることは、障害のある人だけの働き方を考えることではありません。
採用した人材を、どう活かし、どう育て、どう評価し、どう組織の力へ変えていくのか。
その問いは、そのまま人的資本経営の問いにつながっています。
もしこの記事を読んで、
「自社の障害者雇用を、もう一段深く考えてみたい」
と感じた方は、ぜひ次の記事もお読みください。
① まず「2.7%」の先にある経営課題を考える
障害者雇用率を達成するだけで、本当に十分なのか。
制度対応から、人材戦略としての障害者雇用へ。
経営者・人事・管理職がこれから考えるべき視点を整理しています。
▶ 障害者雇用2.7%を経営戦略として考える
② 「採用したのに定着しない」を防ぐ
障害者雇用では、能力だけではなく、
本人の志向・仕事内容・組織文化のマッチング
が非常に重要です。
採用後のミスマッチを減らし、長く活躍できる組織をつくるための考え方はこちらです。
▶ 障害者雇用のミスマッチを防ぎ、定着につなげる
③ 「雇った後」のキャリアと評価まで考える
仕事の責任が増え、成果を出している。
それでも評価・昇格・給与が変わらないとしたら、それは本当に公正な人材活用でしょうか。
障害者雇用を「採用」で終わらせず、キャリア・評価・報酬までつなげる経営について考えます。
▶ 障害者雇用を「雇った後」まで考える
このメディアが伝えたいこと
私は、障害者だけが生きやすい社会をつくりたいのではありません。
人が病気になっても、障害を負っても、育児や介護を抱えても、年齢を重ねても、それまで培ってきた力を失わずに生きられる社会。
そして企業には、
「条件に合う人を探し続ける組織」から、「違う条件を持つ人を活かせる組織」へ。
変わってほしいと考えています。
障害者雇用から見えてくる課題は、これから日本社会全体が直面する課題でもあります。
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そして、これからも
障害者雇用、人的資本経営、働き方、人生再設計
について、当事者の視点から発信していきます。
また次の記事でお会いできれば幸いです。



















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