障害者雇用の離職率は、ミスマッチを防ぐことで大幅に下げられる|当事者目線で考える定着する職場設計

Spread the love

障害者雇用で本当に大切なのは、採用することだけではありません。
採用した人が、その職場で無理なく働き続けられることです。

けれど現実には、障害者雇用では「採用できたのに続かない」という課題が起きています。
その原因は、本人の努力不足でも、企業の善意不足でもなく、最初の段階でのミスマッチにあることが少なくありません。

仕事内容のミスマッチ。
配慮のミスマッチ。
評価基準のミスマッチ。
そして、意外と見落とされやすいのが、本人の働き方の志向と、会社の風土とのミスマッチです。

キャリアアップを目指したい人なのか。
安定して長く働きたい人なのか。
変化の多い環境に向いているのか。
決まった役割を丁寧に積み重ねる方が力を発揮できるのか。

この確認を曖昧にしたまま採用すると、最初はうまく見えても、時間が経つほど違和感が大きくなります。

前回の記事では、障害者雇用を当事者の経験から社会設計として考える重要性について書きました。
まだ読んでいない方は、先にこちらの記事も参考にしてください。

“障害者雇用がうまくいかない理由は「本人」ではなく仕組みにある” (https://newlifestylesdlm.jp/2026/07/06/disability-experience-work-life-soc

障害者雇用の定着率を上げるために必要なのは、根性論ではありません。
「この人は何ができるか」だけでなく、どんな環境なら力を発揮し続けられるかを見極めることです。

障害者雇用は、採用数より「定着の質」が問われる段階に入っている

2026年7月以降、民間企業の法定雇用率は2.7%へ引き上げられ、対象事業主の範囲も広がります。
つまり、障害者雇用は一部の大企業だけの課題ではなく、より多くの企業にとって避けて通れない経営課題になります。

ただ、ここで企業が間違えてはいけないのは、人数だけを満たすことを目的にしてしまうことです。

雇用率を満たすために急いで採用する。
業務設計が曖昧なまま受け入れる。
本人の希望や適性を十分に確認しない。
現場には「配慮してください」とだけ伝える。

このような採用は、短期的には数字を作れても、長期的には離職を生みます。

障害者雇用率2.7%時代については、こちらの記事でも詳しく整理しています。

“障害者雇用率2.7%は経営戦略である|企業が今から整えるべき職場設計”

これからの障害者雇用では「採用できたか」ではなく、定着できる設計になっているかが問われます。

障害者雇用のミスマッチは、能力不足ではなく「前提のズレ」から起きる

障害者雇用で離職が起きたとき、企業側はこう考えがちです。

「思ったよりできなかった」
「体調が安定しなかった」
「コミュニケーションが難しかった」
「職場に馴染めなかった」

一方で、当事者側はこう感じていることがあります。

「聞いていた仕事内容と違った」
「配慮をお願いしにくかった」
「評価の基準がわからなかった」
「頑張っても、ここで長く働ける未来が見えなかった」

このズレは、どちらか一方が悪いという話ではありません。
問題は、採用前に確認すべきことを確認しないまま、雇用が始まってしまうことです。

特に重要なのは、次の3つです。

1つ目は、仕事内容のミスマッチ。
本人ができる業務と、実際に任される業務が違うと、早い段階で負担が増えます。

2つ目は、配慮のミスマッチ。
必要な配慮が曖昧なままだと、本人は我慢し、現場は戸惑います。

3つ目は、働き方の価値観のミスマッチ。
ここが最も見落とされやすい部分です。

障害者雇用がうまくいかない理由については、こちらの記事でも構造的に解説しています。

“障害者雇用がうまくいかない理由は「本人」ではなく仕組みにある”

キャリアアップ思考か、安定志向かを確認しない採用は危険

障害者雇用では、「働けるか」「通勤できるか」「どの業務ができるか」に目が向きがちです。
もちろん、それらは大切です。

しかし、それだけでは定着は見えません。

本人が何を望んでいるのか。
どんな働き方なら安心できるのか。
どのような成長を求めているのか。
逆に、どのような変化が負担になりやすいのか。

ここを確認しなければ、本当の意味でのマッチングはできません。

たとえば、本人がキャリアアップ思考の場合。
その人は、障害があっても挑戦したい、役割を広げたい、評価されたい、成長したいと考えているかもしれません。

そのような人を、単純作業だけの固定業務に配置し続けると、最初は安定していても、やがて「ここでは成長できない」と感じる可能性があります。

逆に、本人が安定志向の場合。
その人は、変化よりも継続、昇進よりも安心、競争よりも落ち着いた環境を求めているかもしれません。

そのような人を、スピード感の強い職場や、頻繁に役割が変わる環境に置くと、能力以前に心身の負荷が大きくなります。

どちらが正しいという話ではありません。
キャリアアップ思考も、安定志向も、どちらも大切な働き方です。

問題は、本人の志向と会社の風土が合っていないことです。

中途障害者のキャリア再設計については、こちらの記事も合わせて読むと理解が深まります。

“中途障害者のキャリア再設計|働き方を立て直すために必要な視点”

「成長を求める会社」と「安定を求める本人」のズレ

企業によって、職場の空気は大きく違います。

スピードを重視する会社。
変化に強い人を評価する会社。
自分から提案する人が活躍しやすい会社。
成果主義の色が強い会社。

一方で、安定運用を重視する会社もあります。

決められた業務を丁寧に続ける人を評価する。
長く働くことを大切にする。
急な変化より、確実な遂行を重んじる。
チームで支え合う文化がある。

障害者雇用では、この会社の風土との相性が非常に重要です。

成長を求める会社に、安定を最優先する人が入ると苦しくなることがあります。
逆に、安定運用を重視する会社に、挑戦意欲の強い人が入ると物足りなさを感じることがあります。

これは、本人の能力の問題ではありません。
会社の良し悪しでもありません。

ただ、合っていないのです。

そして、この「合っていない」を採用後に修正するのは、簡単ではありません。

当事者目線で見ると、ミスマッチは早い段階で心を削る

私は中途で重度障害者となり、障害者雇用の中で働いてきた当事者として思います。

障害者雇用で本当に苦しいのは、単に仕事が難しいことではありません。
「自分はこの職場にいていいのか」と感じ続けることです。

できないことがある。
配慮が必要になる。
体調に波がある。
周囲と同じように動けない場面がある。

それだけでも、当事者は少なからず緊張を抱えています。

そこに、仕事内容や職場風土のミスマッチが重なると、本人はこう考えるようになります。

「自分が迷惑をかけているのではないか」
「もっと頑張らないといけないのではないか」
「でも、これ以上は続かないかもしれない」
「結局、自分には働く場所がないのではないか」

この状態になると、離職は突然起きたように見えて、実際には少しずつ積み重なった結果です。

だからこそ、障害者雇用では採用時点での見極めが重要です。

本人に無理をさせてから調整するのでは遅い。
現場が疲弊してから支援を入れるのでも遅い。
離職が決まってから原因を分析しても、戻せないものがあります。

ミスマッチは、起きてから対処するものではありません。
最初から防ぐものです。

当事者が自分らしく働くための考え方は、こちらの記事でも書いています。

“障害があっても自分らしく働くために必要な人生の整え方”

面接で確認すべきは「できること」だけではない

障害者雇用の面接では、どうしても障害特性や配慮事項の確認が中心になります。

どのような業務ができるか。
通勤は可能か。
勤務時間はどれくらいか。
必要な配慮は何か。
通院頻度はどれくらいか。

もちろん、これらは重要です。

しかし、定着を考えるなら、次のような質問も必要です。

「将来的にどのような働き方を望んでいますか」
「安定して同じ業務を続けたいですか、それとも少しずつ役割を広げたいですか」
「評価されるとしたら、どのような点を見てほしいですか」
「変化の多い環境と、決まった流れのある環境では、どちらが働きやすいですか」
「困ったとき、自分から相談しやすいですか。それとも定期面談があった方が安心ですか」
「仕事において、最も避けたい負担は何ですか」

これらは、本人を選別するための質問ではありません。
本人を理解するための質問です。

そして企業側も、自社の風土を正直に伝える必要があります。

「当社は変化が多い職場です」
「スピード感を求める場面があります」
「一方で、相談できる体制はあります」
「業務は固定的ですが、長く安定して働く人を評価します」
「キャリアアップの道はありますが、本人の希望を確認しながら進めます」

採用で大切なのは、よく見せることではありません。
入社後に「聞いていた話と違う」を減らすことです。

障害者雇用の定着には「本人理解」と「職場理解」の両方が必要

障害者雇用では、企業が本人を理解することが大切です。
しかし、それと同じくらい、本人が職場を理解することも大切です。

どのような人が評価されるのか。
仕事の進め方は個人型か、チーム型か。
指示は明確か、臨機応変さが求められるのか。
相談しやすい文化があるのか。
失敗したときに責める職場か、改善する職場か。

これらは、求人票だけではわかりません。

だからこそ、職場見学や実習、業務説明、現場担当者との面談が重要になります。

障害者雇用の採用経路や、病院・リハビリ・支援機関とのつながりについては、こちらの記事も参考になります。

“障害者雇用の採用経路はエージェントだけではない|公的機関・病院・リハビリとの連携”

「配慮できる会社」ではなく「設計できる会社」が定着を生む

障害者雇用でよく使われる言葉に、合理的配慮があります。

もちろん、合理的配慮は重要です。
しかし、配慮だけに頼ると、現場は属人的になります。

「あの上司だからうまくいった」
「あの担当者がいる間は続いた」
「理解ある人が異動したら崩れた」

これでは、雇用は安定しません。

本当に必要なのは、配慮を個人の優しさに任せることではなく、組織の仕組みにすることです。

業務内容を明確にする。
指示系統を一本化する。
評価基準を見える化する。
相談のタイミングを決める。
体調変動時の対応ルールを作る。
キャリアアップ希望者には成長の道筋を示す。
安定志向の人には、安心して継続できる役割を設計する。

これが、障害者雇用における職場設計です。

合理的配慮を現場で機能させる考え方は、こちらの記事でも整理しています。

“障害者雇用における合理的配慮の具体例|企業が整えるべき職場設計”

障害者雇用は、特別扱いではありません。
働き続けるための前提を整えることです。

ミスマッチを防ぐために企業が確認すべき5つのこと

障害者雇用で離職を防ぐために、企業は採用前に次の5つを確認すべきです。

第一に、本人の働き方の志向です。
キャリアアップを望むのか、安定就労を望むのか。ここを曖昧にすると、後から不満や不安につながります。

第二に、自社の職場風土です。
変化が多いのか、安定運用型なのか。自社の文化を美化せず、正直に言語化する必要があります。

第三に、業務の切り出しです。
「何となくできそうな仕事」ではなく、具体的な業務内容、量、期限、判断範囲を明確にすることが重要です。

第四に、相談体制です。
困ったときに誰へ相談するのか。定期面談はあるのか。配慮の変更は誰が判断するのか。ここが曖昧だと本人は我慢します。

第五に、評価と成長の道筋です。
安定して働くことを評価するのか、業務拡大を評価するのか。本人の希望と会社の期待をすり合わせる必要があります。

この5つを確認するだけでも、ミスマッチは大きく減らせます。

当事者にとっても「自分の志向を言語化すること」が大切

企業だけでなく、障害のある本人にも大切なことがあります。

それは、自分の働き方の希望を言語化することです。

「何でも頑張ります」
「配慮はいりません」
「迷惑をかけないようにします」

この言葉は、一見前向きに見えます。
けれど、当事者目線で見ると、危うさもあります。

無理をして入社すると、後から苦しくなります。
本当は必要な配慮を隠すと、働き続ける土台が崩れます。
自分の希望を伝えないまま入社すると、会社とのズレが大きくなります。

だから、当事者も自分に問いかける必要があります。

自分は成長を求めているのか。
安定を求めているのか。
どんな環境なら安心して働けるのか。
どんな業務なら力を発揮しやすいのか。
どんな職場だと消耗しやすいのか。

これは、わがままではありません。
長く働くための自己理解です。

自分を責めずに働き方を整える考え方は、こちらの記事にもつながります。

“できない自分を責めない|人生再設計に必要な働き方の見直し”

離職を減らす障害者雇用は、企業にも当事者にも誠実である

障害者雇用の離職を減らすために必要なのは、きれいな理念だけではありません。

採用前に確認する。
できることと難しいことを整理する。
本人の志向を聞く。
会社の風土を正直に伝える。
業務と評価を設計する。
入社後も定期的にすり合わせる。

この地道な積み重ねです。

ミスマッチを防ぐことは、障害者を守るだけではありません。
企業を守ることでもあります。

本人が無理をして壊れる。
現場が支えきれず疲弊する。
採用担当者が「障害者雇用は難しい」と感じる。
そして、次の雇用に消極的になる。

この悪循環を止めるには、採用段階からの設計が必要です。

障害者雇用は、善意だけでは続きません。
制度だけでも続きません。
本人の努力だけでも限界があります。

続く障害者雇用には、マッチングがあります。
そして、そのマッチングとは、単にスキルと業務を合わせることではありません。

本人の人生観。
働き方の希望。
体調との付き合い方。
会社の文化。
評価の仕組み。
現場の受け入れ体制。

それらを丁寧にすり合わせることです。

障害者雇用を福祉ではなく、相互理解として考える視点はこちらの記事でも深掘りしています。

“障害者雇用は福祉ではない|相互理解から始まる職場設計”

まとめ|障害者雇用の定着率は、ミスマッチを防げば変えられる

障害者雇用の離職は、本人の弱さだけで起きるものではありません。
企業の理解不足だけで起きるものでもありません。

多くの場合、その間にある「ミスマッチ」が見落とされています。

キャリアアップを望む人に、成長の道がない。
安定を望む人に、変化の大きい環境を求める。
配慮が必要な人に、相談しにくい職場を用意する。
丁寧に働ける人に、曖昧で属人的な業務を任せる。

これでは、どれだけ本人が頑張っても、定着は難しくなります。

障害者雇用で本当に必要なのは、採用の入口を広げることだけではありません。
働き続けられる出口まで設計することです。

キャリアアップ思考なのか。
安定志向なのか。
どんな職場風土と合うのか。
どんな配慮があれば力を発揮できるのか。

ここを丁寧に確認することが、離職率を下げ、企業と当事者の双方を救います。

障害者雇用は、人数合わせではありません。
人と職場の未来をつなぐ設計です。

採用して終わりではなく、働き続けられる関係をつくる。
そのために、まず必要なのは「ミスマッチを防ぐ」という視点ではないでしょうか。

関連記事

障害者雇用をさらに深く考えたい方は、こちらの記事もあわせてご覧ください。

“障害者雇用を当事者経験から社会設計として考える理由”

“障害者雇用率2.7%は経営戦略である|企業が今から整えるべき職場設計”

“障害者雇用は福祉ではない|相互理解から始まる職場設計”

“障害者雇用がうまくいかない理由は「本人」ではなく仕組みにある”

CTA

障害者雇用を成功させるには、採用数だけでなく、職場設計・相互理解・定着支援までを一体で考える必要があります。

「なぜ続かないのか」ではなく、
「どうすれば続けられるのか」。

その視点を持つことで、障害者雇用は人数合わせではなく、人と職場の未来をつなぐ取り組みに変わります。

このブログでは、障害者雇用を当事者目線・企業目線・社会設計の視点から発信しています。
働く当事者、採用担当者、管理職、経営者の方は、ぜひ関連記事もあわせて読んでみてください。

コメントを残す

障害者雇用がうまくいかない会社は、なぜ多様な人材も活かせないのか――人手不足時代に問われる組織の適応力

Spread the love

障害者雇用がうまくいかない会社は、なぜ育児・介護・高齢者・復職者など多様な人材も活かしにくい…

障害者雇用で問われるのは「経営の解像度」だ――管理職経験を持つ当事者が考える、人を壊さず成果を出す組織

Spread the love

障害者雇用で問われるのは、雇用率や配慮だけではありません。管理職経験を持つ障害者雇用当事者の…

障害者雇用は「雇えば成功」なのか――雇用率2.7%時代、日本企業に問われるキャリア・評価・給与の構造

Spread the love

障害者雇用は「何人雇ったか」だけで成功と言えるのでしょうか。仕事や責任が高度化しても、評価・…

Recent Articles

『不自由な自由』 〜当たり前が壊れた後の、新しい世界の歩き方〜をもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む

Verified by MonsterInsights