障害者雇用で人が静かに辞めていく本当の理由――「期待されない職場」が奪う仕事の尊厳

Spread the love


「配慮はされている。
でも、必要とされている気がしない」
障害者雇用で働く人の中には、そんな苦しさを誰にも言えないまま、職場から心が離れていく人がいます。
仕事を断られる。
責任を任されない。
失敗しないように、簡単な作業だけが与えられる。
上司や同僚に悪意があるわけではありません。
むしろ、
「無理をさせてはいけない」
「体調を崩さないように守りたい」
という善意から、仕事を制限している場合もあります。
しかし、その配慮が本人の希望を確認しないまま続けば、やがて別の苦しさに変わります。
雇用はされている。
けれど、職場の一員として期待されていない。
人は、忙しさや過重労働だけで壊れるのではありません。
誰からも頼られず、自分の仕事に意味を感じられない状態が続くことでも、働く尊厳を失っていきます。
私は31歳で脳出血を発症し、左手が動かず、左足にも麻痺が残る中途重度障害者となりました。
そして現在、障害者雇用で働く当事者として強く感じていることがあります。
障害者雇用に必要なのは、優しさだけではありません。
その人が何を望み、どのような力を持ち、どんな形なら職場に貢献できるのかを一緒に考えることです。
採用前のミスマッチを防ぐ視点については、こちらの記事で詳しく書いています。
障害者雇用のミスマッチを防ぐ――離職を減らし、職場定着につなげる採用前の確認事項⁠
本記事では、その先にある「配慮されているのに、なぜ人は辞めてしまうのか」という問題を、中途重度障害者の視点から考えます。
障害者雇用の離職は「配慮不足」だけでは説明できない
障害者雇用の離職理由として、よく挙げられるのは次のような問題です。
障害特性への理解が足りない
必要な合理的配慮が受けられない
上司や同僚との関係がうまくいかない
仕事内容と本人の能力が合っていない
体調管理と働き方を両立できない
もちろん、これらは職場定着を考えるうえで重要な問題です。
しかし、合理的配慮があり、勤務時間も調整され、表面的には問題なく働けているように見えても、本人の心が職場から離れていくことがあります。
その理由の一つが、期待されていないという感覚です。
仕事を任せてもらえない。
成果を求められない。
成長について話し合う機会がない。
評価されることも、改善点を伝えられることもない。
すると本人は、少しずつ考えるようになります。
「自分は、この職場に必要なのだろうか」
「障害者雇用だから、ここに置いてもらっているだけなのではないか」
「自分が休んでも、辞めても、何も変わらないのではないか」
この感覚が積み重なると、出勤は続けていても、心は静かに職場から離れていきます。
中途障害者は「できていた頃の自分」を知っている
中途障害者の苦しさは、今できないことだけではありません。
以前はできていたという記憶を持っていることです。
私は脳出血を発症する前、身体を自由に動かし、技術職として働いていました。
仕事を任され、責任を持ち、自分なりに将来を考えていました。
しかし、脳出血によって身体の自由を失い、働き方も人生設計も一度崩れました。
昨日まで当たり前にできていたことが、突然できなくなる。
それは身体機能を失うだけではありません。
役割、誇り、将来への自信まで失ったように感じる経験です。
障害者雇用で再び働けるようになったとしても、本人の中には「かつて働いていた自分」が残っています。
誰かから頼られていた自分。
責任ある仕事をしていた自分。
努力すれば成長できると信じていた自分。
だからこそ、障害を理由に仕事の可能性を最初から閉ざされることは、想像以上に深く心へ刺さります。
私自身の社会復帰と人生再設計については、こちらの記事でも詳しく書いています。
脳出血で中途障害者になった私が、障害者雇用で人生を再設計するまで⁠
「無理をさせない」と「何も任せない」は違う
障害者雇用では、無理をさせないことが大切です。
障害特性や体調を無視して仕事を押しつければ、本人は心身を壊し、働き続けることができません。
しかし、無理をさせないことと、何も任せないことは同じではありません。
人は仕事を通じて、
「自分の仕事が誰かの役に立った」
「この役割は自分に任されている」
「昨日よりできることが増えた」
という実感を得ます。
これは障害の有無に関係なく、働く人にとって大切な感覚です。
配慮とは、責任をすべて取り除くことではありません。
その人が責任を果たせる形に、仕事を設計し直すことです。
口頭での指示が理解しにくければ、文章や図で伝える。
長時間の集中が難しければ、業務を小さく分ける。
通勤による身体的負担が大きければ、勤務時間や在宅勤務を調整する。
身体的に難しい作業があれば、経験や判断力を生かせる仕事へ置き換える。
仕事を奪うのではなく、働ける形へ変える。
それが、職場定着につながる合理的配慮ではないでしょうか。
仕事の任せ方が職場定着を左右する理由については、こちらの記事も参考になります。
障害者雇用が定着しない理由――採用後の「仕事の任せ方」が離職を生む⁠
期待することは、無理を押しつけることではない
「期待」という言葉に、負担を感じる人もいます。
過度な成果を求められたり、体調を無視して頑張ることを要求されたりすれば、期待は本人を追い詰めるものになります。
だからこそ、期待は企業が一方的に押しつけるものではありません。
本人と企業が対話しながら、無理のない形を一緒に決める必要があります。
キャリアアップを望む人もいます。
専門性を高めたい人もいます。
新しい仕事へ挑戦したい人もいます。
一方で、変化を抑えながら、安定して長く働きたい人もいます。
どちらが正しいということではありません。
そして、安定して働きたい人に期待が必要ないわけでもありません。
「この仕事を丁寧に続けてほしい」
「あなたの正確さを生かしてほしい」
「この業務はあなたがいることで支えられている」
これも、立派な期待です。
期待とは、昇進や競争だけを意味するのではありません。
その人の役割と貢献を、職場がきちんと言葉にして認めることです。
「障害者だから、この程度でいい」が見えない壁になる
障害者雇用の職場では、本人の希望を確認しないまま、可能性が決められてしまうことがあります。
障害者だから、補助的な仕事だけ。
障害者だから、責任ある業務は任せられない。
障害者だから、評価や昇給は難しい。
障害者だから、現状を維持できれば十分。
本人自身が安定を望んでいるのであれば、それも一つの働き方です。
しかし、本人の意思を確認せず、障害だけを理由に仕事の範囲を決めてしまえば、それは配慮ではありません。
その人の障害だけを見て、その人自身を見ていない状態です。
障害があっても、経験は残っています。
知識があります。
判断力があります。
工夫する力があります。
誰かへ伝えられるものがあります。
障害者手帳を持ったからといって、それまで築いてきた能力や人格まで消えるわけではありません。
障害者雇用を福祉だけで捉えず、企業と本人が価値を生み出す雇用として考える必要があります。
障害者雇用は福祉ではない――企業と当事者に必要な相互理解⁠
障害者雇用で仕事の尊厳を守る5つの視点
1.本人が望む働き方を確認する
企業側が「障害者だから安定を望んでいるだろう」「負担を減らしてほしいだろう」と決めつけてはいけません。
本人が何を大切にし、どこまで挑戦したいのかを確認する必要があります。
希望は、入社時から変わることもあります。
一度聞いて終わりではなく、定期的な面談の中で確認することが大切です。
2.できないことと、工夫すればできることを分ける
現在難しい仕事を、将来もできない仕事と決めつけてはいけません。
道具、環境、指示方法、作業時間を変えることで、できる仕事は増える可能性があります。
「できない」で終わらせず、「どの条件ならできるのか」を本人と一緒に考えることが重要です。
3.役割と貢献を言葉にする
「無理をしなくていい」
「いてくれるだけでいい」
その言葉が必要な時もあります。
しかし、それだけが続けば、本人は自分の役割を見失います。
何を任せているのか。
どのような部分が役に立っているのか。
今後、何を期待しているのか。
具体的に言葉で伝えることが、職場の一員としての実感につながります。
4.小さな挑戦の機会をつくる
いきなり大きな責任を負わせる必要はありません。
本人の希望と体調を確認しながら、小さな仕事から任せる範囲を広げていきます。
新しい仕事へ挑戦し、できた経験を積み重ねることで、自信と職場への信頼が生まれます。
5.評価を曖昧にしない
障害者だから厳しいことを言わない。
配慮を受けているから評価の対象にしない。
その状態では、本人も何を改善すればよいのか分かりません。
できていること。
改善できること。
次に期待していること。
それらを本人に分かる形で伝えることが、公平な評価と成長につながります。
当事者も「何を任せてほしいか」を伝える必要がある
障害者雇用を企業側だけの問題にしても、職場定着は実現しません。
当事者にも、自分の状態と希望を伝える役割があります。
何が難しいのか。
どのような配慮があれば働けるのか。
どんな仕事に挑戦したいのか。
安定を優先したいのか。
成長を望んでいるのか。
企業は、本人が言葉にしないことまで正確に理解できるとは限りません。
一方で、本人が安心して本音を話せる関係がなければ、希望を伝えることもできません。
だから必要なのは、本人と企業のどちらか一方を責めることではありません。
率直に話し合える関係と、話した内容を仕事の設計へ反映できる仕組みです。
人は仕事が多すぎても、なさすぎても傷つく
人は、仕事が多すぎることで壊れることがあります。
無理を重ね、限界を超えれば、心身の健康を失います。
しかし、人は仕事がなさすぎることでも傷つきます。
誰からも頼られない。
何をしても評価されない。
成長する機会がない。
自分がいなくても何も変わらない。
その感覚が続けば、人は職場に居場所を感じられなくなります。
表面上は問題なく出勤していても、心の中では、
「ここに自分の未来はない」
と感じ始めます。
そして、ある日静かに辞めていきます。
その離職を、
「本人の意欲が足りなかった」
「障害者雇用は定着が難しい」
という言葉で終わらせてはいけません。
企業が確認すべきなのは、その人に仕事、役割、評価、成長の機会が与えられていたかどうかです。
障害者雇用は「守る雇用」から「共に価値をつくる雇用」へ
障害者雇用には、本人を守る視点が必要です。
しかし、守るだけでは十分ではありません。
人は誰かに必要とされ、自分の力を生かし、価値を返せることで働く意味を感じます。
失敗させないことだけを目標にするのではなく、その人が力を発揮できる仕事を一緒につくる。
できないことだけを見るのではなく、できることをどのように価値へ変えるかを考える。
障害者雇用は、企業が一方的に誰かを支える制度ではありません。
企業と本人が互いの条件を理解し、共に働き、共に価値を生み出す雇用です。
必要なのは、特別扱いでも、無理な期待でもありません。
「あなたに、この仕事を任せたい」
そう伝えられる仕事と関係を、企業と本人が一緒につくることです。
まとめ|配慮されるだけでは、人は職場の一員になれない
障害者雇用で人が辞めるのは、配慮が足りないからだけではありません。
配慮はあっても、役割がない。
仕事はあっても、その意味が見えない。
雇用はされていても、期待されていない。
その状態が、働く人の尊厳を少しずつ奪うことがあります。
配慮とは、何もさせないことではありません。
期待とは、無理を押しつけることでもありません。
その人が持つ力を見つけ、働ける形に整え、役割として託すことです。
障害者雇用を本当に職場定着する雇用へ変えるために。
あなたの職場では、障害のある社員を守るだけでなく、一人の働く仲間として期待できているでしょうか。
次に読んでほしい記事
障害者雇用の離職を防ぐには、採用前の確認から、採用後の仕事設計、家族や支援者との連携まで、一つの流れとして考える必要があります。
採用段階のミスマッチを防ぎたい方へ
障害者雇用のミスマッチを防ぐ――離職を減らし、職場定着につなげる採用前の確認事項
本人の安定志向・成長志向、仕事内容、職場風土、必要な配慮を、採用前に確認する重要性をまとめています。
採用後の任せ方に悩む企業・管理職の方へ
障害者雇用が定着しない理由――採用後の「仕事の任せ方」が離職を生む⁠
仕事を与えなさすぎても、任せすぎても定着しません。本人が力を発揮できる業務設計を当事者視点から考えます。
障害者雇用の本質を考えたい方へ
障害者雇用は福祉ではない――企業と当事者に必要な相互理解⁠
障害者雇用を「支える側」と「支えられる側」に分けず、共に価値を生み出す雇用へ変えるための記事です。
この発信を、必要としている人へ届けてください
私は、31歳で脳出血を発症し、中途重度障害者となりました。
現在は障害者雇用で働く当事者として、職場定着、キャリア再設計、自分を壊さない生き方について発信しています。
この記事が心に残った方は、ブログのフォローやSNSでのシェアをお願いします。
あなたの一つのシェアが、
「配慮されているのに、なぜか苦しい」
「自分は職場に必要とされていないのではないか」
と感じながら働いている誰かに届くかもしれません。
そして、障害者雇用に悩む企業や管理職が、採用人数だけではなく、その人の役割や仕事の尊厳を見直すきっかけになるかもしれません。
障害があっても、仕事の尊厳まで失わなくていい。
守るだけの障害者雇用から、共に価値をつくる障害者雇用へ。
その変化を、一緒に広げていきませんか。

コメントを残す

障害者雇用は「数」と「質」の両方が求められる時代へ――会社側の不安に、障害者視点から伝えたいこと

Spread the love

これからの障害者雇用は、人数を満たすだけではなく「質」も求められる時代です。質とは、優秀な人…

障害者雇用の離職は「本人の問題」ではない――ミスマッチを防ぐ採用設計とは

Spread the love

障害者雇用の離職は、本人の努力不足だけでは説明できません。大切なのは、障害を難しく考えすぎる…

障害者雇用の離職率は、ミスマッチを防ぐことで大幅に下げられる|当事者目線で考える定着する職場設計

Spread the love

障害者雇用で「採用できたのに続かない」のは、能力不足ではなくミスマッチが原因かもしれません。…

Recent Articles

『不自由な自由』 〜当たり前が壊れた後の、新しい世界の歩き方〜をもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む

Verified by MonsterInsights