私は中途で重い障害を負ってから、「移動できるか」「参加できるか」が生活の質を左右することを骨身にしみて知りました。段差、予約できない交通、止まらないエレベーター——小さな“できない”が積み重なると、生き方そのものが縮む。
これは、個人の話にとどまりません。自治体も同じです。財政の段差、古くて重い箱物、つながらない路線、見えないコスト——小さな“段差”が連なって、まちの未来が縮む。
前回の記事で、養父市の2024年度決算を「家計簿」に見立て、固定費(人件費・社会保障・施設維持費等)が重たく、自由に使えるお金が薄いという現実を整理しました。公共施設(ハコモノ)の維持コスト、人口減と物価・エネルギー高のトリプルパンチ、交通と水道という“縦糸”の老朽化——。
ここから先は、どうやって段差を削り、軽く、しなやかにするかです。キーワードは三つ。
ポートフォリオ:箱物や路線、事業を「持ち方」で最適化する
接続:幹線×デマンドの交通、水道×財源×情報、産業×人材を「つなぐ」
包摂:弱いところから先に届く設計にする(それが結局いちばん効率的)
そして、地方だけで抱え込めない壁がある。そこで国や社会の側の“規格”を変える提案まで書き切ります。
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第1章 復活の鍵①:「公共施設ポートフォリオ」を“通信簿”で動かす
1-1 “持ち方”を変える:大は小を兼ねない時代
昭和・平成の「立派な箱」は、令和・人口減の世界では負担になりがちです。建てるより、持ち続ける方が高い。しかも、人口と利用が下がると1人あたりコストが跳ね上がる。
だからこそ、いま必要なのは**「何を・どれだけ・どう持つか」の再設計、つまりポートフォリオ**です。
1-2 施設の“通信簿”を公開する
年1回、全施設を5軸×20点=100点で採点し、ダッシュボードで公開します。
1. 効果:福祉・教育・経済・文化への寄与、来館者の満足
2. コスト:1人1時間あたりの総コスト(光熱・人件費・修繕を含む)
3. 代替可能性:近隣・オンライン代替の有無
4. 公平性:高齢・障害・子育て・低所得への到達度
5. レジリエンス:非常時の避難・電源・通信機能
80点以上は強化(省エネ・複合化)、60〜79点は条件付き維持(時間帯集約・指定管理KPI改定)、40〜59点は縮小・用途転換、39点以下は統合・撤退候補。
ここで重要なのは、名前で善悪を決めないこと。数字で議論し、感情で合意する。反対の声は当然ある。だからこそ公開・説明・代替案が必要です。
1-3 複合化と“可変運用”
空き教室→子育て×学び×仕事の複合拠点(午前:親子、午後:学習、夜:オンライン就業)
ホール→可搬照明/音響+持込基本化(大型舞台は年○回集中)
体育館→ゾーン運用(大会以外は半面/1/3面、暖房・照明を間引き)
図書館→地域包括支援・就労相談とのコ・ロケーション(職能の“重ね掛け”)
1-4 省エネと保全DXは“先にやると得”
断熱、LED、高効率空調、太陽光+小蓄電で光熱を恒常的に削減
IoTメーターで稼働・温湿度・CO₂・電力を常時把握→「1人1時間あたりkWh」をKPI化
予防保全で突発修繕を平準化(“ある年度にドカン”を避ける)
1-5 指定管理のKPIを入れ替える
来館者数やイベント回数だけでは空回りします。
包摂(障害・高齢・子育て)、省エネ、稼働効率、非常時対応、住民満足をKPIに必須組み込み。更新時に本気で入れ替える。
> 「弱いところから先に届く」運営ほど、全体の効率が上がる——これは福祉の話であり、経営の話でもある。
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第2章 復活の鍵②:「幹線×デマンド」で“移動の権利”を再設計
2-1 交通は“血管”、切れば壊死する
郊外・中山間では車が前提になりがち。でも免許返納・高齢化・障害・子育てを抱える世帯こそ、公共交通がライフラインです。
“赤字だから廃止”は自分の足を切るようなもの。設計を変えるのが正解。
2-2 幹線を太く、末端は“呼べる”
幹線:病院・学校・買い物・役所に必ず接続。定時運行・遅延に強いダイヤ
支線:日中の薄い時間は**デマンド交通(予約制)**に置き換え
予約はスマホ+電話の両建て(デジタル弱者を置いていかない)
KPI:待ち時間、乗継成功率、1便あたり原価、満足度、障害/高齢/子育て層の利用割合
2-3 「関宮モデル」を“見える成果”に
デマンド×小さな拠点×福祉をセットでやると、移動→受診・買い物・学習→健康・就労の回路が動き出す。利用者ストーリー(誰が、どこへ、何回、どう変わった)まで記録・公開する。
私は、“予約できて、乗り継げる”だけで生活の地平が広がると実感している。
2-4 運行の担い手と整備
運転手不足が深刻です。自治体間シェアリング、短時間勤務の組合せ、女性ドライバーの育成、自動運転レベル2/2+領域限定の実証など、**人材と技術の“合わせ技”**を。
**バス停・乗継拠点の完全バリアフリー化(縁石高さ・点字・照明・屋根)**は、**利用を増やすための“攻めの投資”**です。
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第3章 復活の鍵③:水道・下水の「10年アセットマネジメント」
3-1 見えないインフラほど、折れたら致命傷
漏水や管路の老朽化は、目に見えないからこそ後回しになりがち。でも壊れたら一発で暮らしが止まる。
資産台帳(GIS)×劣化度×重要度で、更新の優先順位を10年プロファイルに落とし、料金・繰出し・国スキームまで一体で示す。
3-2 ダッシュボードで「先送りのコスト」を可視化
区画ごとの漏水率
更新遅延年数
断水リスク(確率×影響)
更新に伴う料金改定の幅と家計影響
“いくらなら納得か”を数字で対話する。分割・平準化・借換の手順もセットで。
3-3 小規模分散×省エネの“裏技”
宿営地・集落単位の小規模浄化・再利用、ポンプの高効率化、太陽光+小蓄電で電力依存を軽くする。ESCO(省エネ成果保証)や包括委託を活用し、初期費用の壁を越える。
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第4章 復活の鍵④:産業の“軽いバリューチェーン”で稼ぐ
4-1 「重くて大量」から「軽くて高単価」へ
山間の地の利は、小さく、薄く、価値が凝縮されたものに向きます。
例:朝倉山椒、希少品種の野菜、薬草、山菜、しいたけ、木工。
大量の観光客やトン単位の出荷ではなく、少量・高付加価値・EC・輸出を前提にバリューチェーンを再設計。
4-2 “詰まり”を外すポイント投資
低温物流(マイクロ冷蔵/冷凍)
加工許認可のワンストップ(市の伴走)
D2Cの撮影・編集・翻訳サポート
小規模インキュベーション区画(道の駅や空き施設に併設)
職人の継承・製造の標準化(型紙・治具・動画化)
ハコを増やすのではなく、“流れ”を増やす。 「人・モノ・情報」の移動抵抗を下げる投資が最短距離です。
4-3 観光は“回数×滞在時間×体験価値”で稼ぐ
大型イベントでドンと呼ぶのではなく、“毎月の小さな理由”を増やす発想に転換。
里山トレイル×食×工房体験×温浴など、**2泊3日の“ゆっくり滞在”**を設計。障害・高齢の人でも楽しめるユニバーサル・アクティビティを標準装備にする(移動・トイレ・段差・予約)。
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第5章 復活の鍵⑤:人材と学びの“循環”をつくる
5-1 「教室はある、先生がいない」を超える
少人数化で空間は余るが、専門人材は足りない。
学びのCo-op(学校・公民館・NPO・企業の授業シェアリング)
オンライン×地域ファシリテータ(外部講師+地域の“学びコーチ”)
放課後の“メイカーズ時間”(木工・3Dプリント・電子工作・映像編集)を就労体験につなぐ
5-2 ケアと仕事の両立設計
介護・子育て・障害のある家族を支える人が働き続けられることが、地方の生命線です。
近接コワーキング×時短×在宅の就業メニュー
通院・リハ・送迎の交通パッケージ(幹線×デマンド)
企業とのパートナーシップ(地方サテライト・クラウドワーク受発注)
働ける人が1人増えることの価値は、その家庭だけでなく、自治体の財政と人口構造に跳ね返ります。
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第6章 復活の鍵⑥:財源を“賢く”——借り方・稼ぎ方・削り方
6-1 “初期費用の壁”を越える金融ツール
ESCO/エネルギーPPA:省エネ・再エネを実質無償導入し、削減分で返す
グリーンボンド/ソーシャルボンド:水道・交通・省エネ・バリアフリーの社会的投資を債券で調達
成果連動型(SIB):医療・福祉の再入院率低減やフレイル予防を成果で支払う
6-2 “使いぼれ”を生む会計の癖を正す
「年度最後に駆け込み工事」的な慣行をやめ、複数年契約/包括契約で単価を下げ、品質を上げる。
在庫(固定資産)ではなく、機能(サービス)を買う——サブスク・リース・リースバックの組み合わせも有効。
6-3 “削る自治”ではなく“選ぶ自治”
なんでも削るのは簡単で残酷。守るべき価値(移動、参加、学び、防災)を先に決める。
そのうえで、**通信簿の点が低いものから“軽く・短く・小さく・一緒に”**を合言葉に、用途転換で救う。廃止だけが正解ではない。
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第7章 国と社会を“変える”:地方だけでは越えられない壁
ここからは、国・都道府県・社会全体の規格変更の話です。地方に「工夫でがんばれ」と言いつつ、制度が昔のままでは、がんばりたくても限界が来ます。養父市から**“下からの政策提案”**を突き上げましょう。
7-1 公共交通の補助規格を変える
「赤字補填」から「KPI達成補助」へ:待ち時間、乗継率、障害・高齢の利用率など、成果で支援
デマンド交通の全国標準API:アプリ・電話・福祉連携の共通仕様を国が用意(ベンダーロック回避)
女性・シニア・副業ドライバーの育成助成(免許取得支援、柔軟勤務)
7-2 公共施設の耐用・機能規格を“縮退可能”に
可変運用を前提とした設計基準(面積、動線、避難、電源)
複合化を阻む省庁縦割り補助の解消(“図書館+地域包括+就労支援”の一体採択)
ESCO/包括契約のガイドライン標準化(地方の審査体力を補完)
7-3 水道・下水:広域化と料金設計の現実解
広域連携と共同調達のインセンティブ(国が費用対効果モデルを配布)
低所得・多子世帯への料金軽減を国の定額給付と連動(自治体の単独制度を卒業)
漏水センサー・GISの全国調達(スケールで単価を下げる)
7-4 空き家・農地・森林の“動かし方”を統一
空き家の“用途変更許可”を簡素化(就労・子育て・学び・観光への転用を迅速に)
マイクロ農地の共同管理(搬出・低温物流・販売を自治体横断で一体化)
森林の小規模間伐×バイオマス(発電“だけ”ではなく熱利用へ)
7-5 労働・移民・介護のクロスセクター改革
介護・保育・移動支援の複合資格と一体的配置(人材の“薄く広く”を避ける)
地域限定の就労ビザ(介護・運転・IT保守など地場に根ざす職種)
障害者の遠隔就労(在宅でも正社員相当のジョブ設計ができる環境を整える)
7-6 データ・プライバシーと“信用の回路”
マイナンバー×自治体ダッシュボードを匿名化前提で連携。家計影響や交通利用の見える化は本人の利益に直結
公共調達の透明化(入札・仕様・評価の即時公開)で地元企業の参入を増やす
> 要するに:地方の工夫が制度の天井で突き返されないように、規格そのものを令和化する。ここを動かすのは政治であり、市民の声です。
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第8章 「Nothing about us without us」——包摂が効率を上げる理由
障害当事者の合言葉は「私たち抜きに、私たちのことを決めないで」。これは、自治体経営にも100%当てはまります。
移動に困難がある人、子育てで手が離せない人、ケアの両立に苦しむ人——彼らが**“最初に使える”**ように設計されたサービスは、みんなにとって使いやすく、ムダが少ない。
バス停の縁石高さ・屋根・照明は、車いすと雨の日の親子に効き、結果的に乗降時間が短く遅延も減る
オンライン予約+電話予約は、デジタル弱者を救い、窓口の行列を減らす
バリアフリーな観光動線は、インバウンドやシニアにも人気で、消費単価が上がる
包摂は“優しさ”ではなく、戦略です。弱いところから先に届けることで、町の全体効率が上がるのです。
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第9章 実装ロードマップ:72時間/90日/1年/3年
72時間(宣言と可視化)
1. 「新規ハコ」原則凍結宣言(例外:防災・安全・法令)
2. 施設通信簿の素データ公開(延床・築年・稼働・光熱・修繕・人件費)
3. 幹線×デマンドのKPI掲示(待ち時間・乗継率・原価・利用構成)
90日(設計と優先順位)
1. 全施設採点(100点法)→A/B/C/Dの4類型
2. 縮小・転用・統合の一次リスト(“ネガティブリスト”の仮案)
3. 水道10年AM計画の骨子(優先順位×料金×国スキーム)
4. ESCO/包括契約の発注設計(省エネの束ね発注)
1年(契約と初期効果)
1. 指定管理のKPI改定・入替
2. 幹線ダイヤの定時化+支線デマンド本格運用
3. **複合拠点(空き教室→子育て×学び×仕事)**の1号案件開所
4. ダッシュボードの定例更新(四半期)
3年(“軽い町”の手応え)
1. 公共施設の総エネルギー原単位▲20%
2. デマンド×幹線の総利用者数+満足度の上昇
3. 介護・子育て・障害の就業継続率の改善
4. 観光の滞在日数+体験単価の上昇
5. 水道の更新遅延年数の縮小(断水リスクの逓減)
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第10章 リスクと反論に、先回りで答える
「切り捨て」では?
→ “通信簿”で見える議論に変えます。縮小・転用を第一選択に。防災・福祉・学びは先に守る。
地元の文化が痩せる?
→ 頻度と質を上げる複合化で、“年に数回の大仰さ”から“毎週の息づかい”へ。
民間に任せると粗くなる?
→ **KPI(包摂・省エネ・レジリエンス)**を契約に埋め込み、毎年の更新で鍛える。
補助金がなければ無理?
→ PPA/ESCO/ボンド/SIBで初期費用の壁を越える。国の規格改善は同時並行で求める。
人手が足りない
→ 複合資格・短時間勤務の組合せ・女性/シニアの参入、ITと自動化の“合わせ技”で埋める。
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終章 “希望の手触り”を今つくる:YABU COMPACT 2035
最後に、私の私案を置きます。名づけて**「YABU COMPACT 2035」**。
コンパクトとは、縮むことではない。機能を重ね、無駄を減らし、届くべき人に届くよう整えること。
10の約束(合意の骨格)
1. 移動の権利——幹線×デマンドで、誰もが通院・買い物・学びに行ける
2. 見える自治——施設通信簿・交通KPI・水道AMのダッシュボード更新
3. 軽い箱——複合化・可変運用・省エネで、固定費を恒常的に下げる
4. 働ける設計——近接/在宅就業とケアの両立を整える
5. 学ぶ町——小中高・公民館・NPO・企業の授業シェアリング
6. 稼ぐ流れ——低温物流・加工・EC・翻訳・撮影の“詰まり”を外す
7. 包摂の標準——障害・高齢・子育てに最初に届く設計
8. 水の安心——10年の優先順位と家計影響の“見える対話”
9. 賢い財源——ESCO・PPA・ボンド・SIBの総動員
10. 国を変える声——補助規格・設計基準・広域化・人材・データの令和化を要求
測る指標(2030→2035のターゲット)
公共施設の1人1時間あたりコスト:▲20%
交通の待ち時間中央値:▲30%/乗継成功率:+20pt
要介護×就業継続率:+15pt
観光の平均滞在日数:+0.8日/体験単価:+30%
更新遅延年数(水道):半減
物語を増やす
KPIは必要条件。十分条件は物語です。
「車いすの私が、雨の日も予約して乗り継げた」「空き教室が、子どもと親とフリーランスの居場所になった」「ホールの灯が、毎週小さく点いた」「あの農家さんの山椒が、海外の食卓に届いた」。
数字と物語がそろった時、自治体の変化は不可逆になります。
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おわりに:私の“ひと声”が、規格を変える
財政・交通・水道・産業——どれも難しそうに見えるけれど、毎日の快・不快に直結する“生活の部品”です。
最初の一歩は小さくていい。
近所の施設の通信簿を見たいと声をあげる
デマンド交通を一度予約してみる
空き教室の転用アイデアを1件出す
それだけで、議会も、役所も、国も少しずつ動きます。
「Nothing about us without us」。私たち抜きでは決めないで。
私たちと一緒に決めよう。 そう言える町は、必ず軽く、強く、しなやかになります。養父市には、その素質がある。だから、この文章を読み終えたあなたが、最初のストーリーの主人公です。















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