【冒頭】
「障害者採用の求人を出しているのに、応募が来ない」
「紹介会社から候補者は来るが、なかなか決められない」
「ようやく採用したのに、現場とうまく噛み合わない」
「雇用率を達成したい。でも、何の仕事を任せればいいか分からない」
こうした悩みを、
「障害者人材が不足しているから」
だけで説明してしまうと、
本当の問題を見誤るかもしれません。
2026年7月から、
民間企業の法定雇用率は2.7%となりました。
対象となる企業の範囲も広がり、
これまで以上に多くの企業が
障害者採用と向き合うことになります。
しかし、
雇用率が上がったからといって、
求人票を出せば採れるわけではありません。
そして、もっと重要なのは、
「採用できた=障害者雇用に成功した」
でもないということです。
私は中途重度障害者として、
現在、障害者雇用で働く当事者です。
一方で、
障害を負う前には、
仕事を任せる側、管理する側も経験してきました。
その両側から障害者雇用を見るようになって、
強く感じることがあります。
障害者採用で本当に難しいのは、
「人を見つけること」
ではありません。
本当に難しいのは、
その人が価値を出せる仕事を会社側が説明し、
本人と会社の条件をすり合わせ、
採用後も成果につながる状態まで設計することです。
つまり、
採用の問題に見えて、
実は「組織設計」の問題なのです。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 「良い障害者がいない」は、本当に人材市場の問題か
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
障害者採用について話していると、
時々、
「なかなか良い人がいない」
という言葉を耳にします。
しかし私は、
この言葉を聞くと、
一度立ち止まりたくなります。
そもそも、
御社にとって
「良い人」とは、
どんな人なのでしょうか。
PCが使える人。
コミュニケーションができる人。
休まず出勤できる人。
指示通り仕事ができる人。
もちろん、どれも大切です。
しかし、
それだけでは採用要件として十分ではありません。
例えば、
どんな成果を出してほしいのか。
どこまで本人に判断してほしいのか。
どんな頻度で他者との調整が発生するのか。
どこから上司へ相談すればよいのか。
半年後、どこまで仕事を広げたいのか。
ここまで説明できるでしょうか。
もし、
会社側が仕事を具体的に説明できていないのに、
応募者側だけに
「自社に合う人材であること」
を求めているとしたら、
採用が難しくなるのは当然です。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 「この人にできる仕事は何だろう」から始めると失敗しやすい
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
障害者採用でよく起こるのが、
人を採ってから、
「この人に何をしてもらおう」
と考えることです。
すると、
コピー。
データ入力。
郵便。
ファイリング。
庶務。
など、
既存社員がやっている仕事の中から、
比較的簡単そうなものを集めることになります。
しかし、
ここには大きな問題があります。
仕事は、
「余っている仕事を誰かに渡すこと」
ではありません。
会社として必要な成果を出すために存在しています。
本来は、
人を探す前に、
会社の仕事を分解する。
そのうえで、
どんな成果が必要なのか。
どこまで判断が必要なのか。
どんな環境なら遂行できるのか。
どんな支援・配慮があれば安定するのか。
を整理する必要があります。
順番は、
「障害者にできる仕事を探す」
ではありません。
「会社の仕事を説明できる状態にする」
が先です。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 障害者採用の求人票には、会社の組織能力が表れる
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
例えば、
こんな求人票を見かけることがあります。
「一般事務」
仕事内容:
・データ入力
・書類整理
・その他付随業務
障害に応じて配慮します。
一見すると、
問題がないように見えます。
でも、応募する側から見ると、
ほとんど何も分かりません。
何を成果として求められるのか。
1日の仕事量はどれくらいなのか。
電話対応はあるのか。
判断はどこまで必要なのか。
分からないとき誰に聞けばいいのか。
仕事は将来広がるのか。
評価は何を見るのか。
これらが分からない。
そして、
「障害に応じて配慮します」
という言葉も、
具体的でなければ安心材料にはなりません。
良い求人票とは、
応募者をたくさん集める求人票ではありません。
本人が、
「この仕事なら自分は力を出せそうだ」
あるいは、
「これは自分には合わない」
と、
応募前に判断できる求人票です。
つまり、
求人票は広告であると同時に、
最初のミスマッチ防止装置なのです。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 「配慮できます」だけでは、良い人材ほど動かない
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
障害者採用というと、
どうしても企業は
「どんな配慮ができますか」
という話に偏りやすくなります。
もちろん配慮は重要です。
しかし、
働く側が知りたいのは、
配慮だけではありません。
何を任されるのか。
何を期待されるのか。
成果をどう評価されるのか。
仕事は将来広がるのか。
自分の経験をどう生かせるのか。
これも同じくらい重要です。
特に、
一定の職務経験や専門性を持っている人ほど、
「配慮してもらえる会社」
だけではなく、
「自分が価値を出せる会社」
を見ています。
障害者を、
最初から「支援対象」としてだけ見る採用と、
一人の人材として、
期待・成果・成長まで考える採用。
この違いは、
求人票の言葉にも、
面接にも、
採用後の仕事にも、
そのまま表れます。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 面接で病名ばかり聞いていませんか
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
障害者採用の面接になると、
突然、
「障害について確認する面接」
になってしまう企業があります。
もちろん、
業務を安全かつ継続的に行うために、
仕事との関係で確認すべきことはあります。
しかし、
会社が本当に知りたいのは、
病名そのものではないはずです。
知りたいのは、
どんな仕事なら力を出せるのか。
どんな環境で難しさが生じるのか。
本人は困ったときどう対処するのか。
どんな配慮があれば安定するのか。
過去の経験を自社で再現できるのか。
つまり、
見るべきなのは
「障害」
ではなく、
「障害と仕事の関係」です。
そしてもう一つ、
忘れてはいけない質問があります。
「あなたは、これからどんな仕事ができるようになりたいですか?」
配慮ばかり確認して、
未来を聞かない。
それでは、
採用の段階から
本人を「成長する人材」として見ていないことになります。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 採用担当者だけで決める採用は、入社後に現場で止まる
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
人事では、
「ぜひ採用したい」
となった。
しかし、
配属予定の管理職へ話すと、
「具体的に何を任せるんですか?」
「誰が教えるんですか?」
「どこまで配慮すればいいんですか?」
と聞かれる。
そこで初めて、
仕事が決まっていなかったことに気づく。
障害者雇用で起こりやすい構造です。
これは、
管理職の理解不足だけが原因ではありません。
採用の設計段階から、
現場を入れていなかったことが問題なのです。
採用前に最低でも、
「何を任せるのか」
「何を成果とするのか」
「どんな配慮が想定されるのか」
「誰が相談を受けるのか」
「半年後、仕事をどう広げるのか」
を、
人事と現場が共有しておく必要があります。
採用とは、
人事が人を採って、
現場へ渡す仕事ではありません。
会社として、
一人の人材を受け入れる仕組みを作る仕事です。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 雇用率達成を急ぐほど、採用後のコストが見えなくなる
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
法定雇用率への対応が迫ると、
どうしても、
「あと何人採用しなければならないか」
に目が向きます。
しかし、
人数だけをKPIにすると、
採用後が見えなくなります。
例えば、
採用したものの仕事が決まっていない。
管理職が毎日仕事を探している。
本人への説明が属人化する。
人事への相談が増える。
配慮の判断が上司任せになる。
評価できない。
成長する仕事がない。
こうなると、
採用人数を増やすほど、
管理コストも比例して増えていきます。
ここで、
「障害者雇用は手がかかる」
という結論になる。
でも本当にそうでしょうか。
もしかすると、
手がかかっているのは
「障害者だから」
ではなく、
採用前に仕事と管理方法を設計していなかったから
かもしれません。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 一人採用できた会社と、採用を再現できる会社は違う
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
理解のある人事担当者がいる。
理解のある管理職がいる。
たまたま非常に相性の良い候補者が来た。
それで、
一人の採用に成功することはあります。
しかし、
その人事担当者が異動したら。
管理職が変わったら。
採用人数が5人になったら。
10人になったら。
同じ品質で採用できるでしょうか。
私は、
障害者採用の本当の成功とは、
「良い人を一人採れた」
ことではなく、
人が変わっても、
一定品質で
募集し、
見極め、
採用し、
受け入れ、
定着までつなげられること
だと考えています。
それが、
採用を「個人技」から「組織能力」に変えるということです。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 障害者採用は「採用部門」だけのテーマではない
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ここまで読むと、
障害者採用とは、
単なる人事施策ではないことが分かります。
業務設計。
組織設計。
マネジメント。
合理的配慮。
評価。
キャリア。
ナレッジ継承。
すべてにつながっています。
そして、
障害者採用で会社が問われているのは、
「障害者を雇える会社か」
だけではありません。
異なる条件を持つ人を、
仕事と成果へつなげられる会社か。
その組織能力です。
障害者採用は、
その会社の仕事がどれだけ整理されているか。
管理がどれだけ言語化されているか。
人材をどれだけ役割として見られているか。
それらを映す鏡でもあります。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ では、具体的にどう設計するのか
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ここまで、
「なぜ採用できないのか」
「なぜ採用後に失敗するのか」
について書いてきました。
しかし、
実務で必要なのは、
ここからです。
では、
会社の仕事をどう棚卸しするのか。
どんな単位で業務を分解するのか。
どんな採用ペルソナを作るのか。
ハローワーク、障害者専門媒体、人材紹介、就労移行支援、学校、自社採用サイトをどう使い分けるのか。
応募が来る求人票をどう書くのか。
面接で何を聞くのか。
何を聞かないのか。
候補者をどう評価するのか。
実習をどう見るのか。
内定前に何をすり合わせるのか。
入社前に何を準備するのか。
30日、60日、90日で何を見るのか。
媒体ごとの採用効果をどう測るのか。
ここまで一気通貫で設計できて、
初めて障害者採用は、
「担当者の経験」
ではなく、
「会社の採用システム」
になります。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 採用をゼロから設計するための「完全版」をまとめました
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
今回、
私自身の
中途重度障害者としての当事者経験。
障害者雇用で働く経験。
元管理職として仕事を任せてきた経験。
障害者雇用アドバイザーとして組織を見る視点。
それらを統合し、
障害者採用を、
募集から90日後まで一気通貫で設計するための
【障害者雇用 採用Architecture完全版】
を有料noteとしてまとめました。
これは、
障害者雇用についての読み物ではありません。
実際に採用を設計するときに、
横へ置いて使うための
「採用虎の巻」です。
内容は、
・障害者採用で捨てるべき思い込み
・採用前に経営が決めること
・業務棚卸し
・業務分解
・採用ペルソナ
・媒体選択
・媒体別の使い分け
・求人票完成例
・応募前ミスマッチ防止
・書類選考
・面接質問
・面接評価
・職場実習
・採用判断
・期待値調整
・入社前準備
・入社後90日
・採用KPI
・媒体ROI
・採用Dashboard
・採用会議チェックリスト
までを体系化しています。
特に、
「これから障害者採用を本格化する」
「雇用率への対応を急がなければならない」
「採用しているが定着しない」
「現場管理職の負担をこれ以上増やしたくない」
「採用を担当者の経験ではなく仕組みにしたい」
という企業の経営者、人事責任者、管理職、コンサルタントには、
そのまま実務へ落とし込める内容を意識しました。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 今必要なのは「あと何人採るか」だけではない
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
これから障害者雇用率への対応が強く求められるほど、
企業は、
「あと何人必要か」
を考えることになります。
しかし、
私はその前に、
もう一つ問いを置きたい。
その人数を採用したあと、
御社の組織は、
同じ品質で回せますか。
管理職の負担は比例して増えませんか。
一人ひとりに仕事がありますか。
何を期待するか説明できますか。
評価できますか。
次の仕事がありますか。
もし、
どれか一つでも答えに迷うなら、
採用人数を増やす前に、
採用そのものを設計し直す価値があります。
雇用率を達成するために、
雇用率だけを見ない。
採用をゴールにせず、
定着。
成果。
成長。
まで逆算する。
障害者を「採れる会社」ではなく、
異なる条件を持つ人材を
継続的に「活かせる会社」へ。
そのための設計書を、
こちらにまとめました。
▼ 障害者雇用 採用Architecture完全版
――雇用率達成のための採用虎の巻
https://note.com/counselor0212/n/n58ad17c3d2e3
成果は守る。
方法は疑う。
人には期待する。
仕組みで支える。
採用から、
組織そのものを強くしていく。
それが、
これからの障害者雇用に必要な
Recruitment Architectureだと考えています。
障害者雇用が「うまくいっている会社」ほど危ない――理解ある上司・合理的配慮・定着の裏に潜む“善意依存”という経営リスク
「あの課長がいるから、障害者雇用はうまくいっている」。その状態は成功ではなく、属人化かもしれ…













コメントを残す