はじめに:静かな不安は、暮らしの足もとからやってくる
暮らしの安心は、イベントや観光ではつくれません。
毎日の水、トイレ、移動、電気、病院、買い物、そして助けを呼べる仕組み——こうした生活インフラが、当たり前に回り続けることが前提です。
けれど養父市では、その当たり前が同時多発的に危うくなる兆しが濃くなっています。
この記事は、障害や病気、子育て、介護、ひとり暮らし——「暮らしの脆さ」を抱える人の目線で、数字と現場の動きを重ねながら、「いま何が起きているのか」「私たちは何を選ぶのか」を、生活の言葉で考え抜く試みです。
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1|数字がつきつける“いま”
まず、静かな現実です。養父市の人口は約2.1万人規模。そして高齢化率は40%超(R7=2025年3月末時点)。市の公式プレゼン資料には、はっきり数字が並んでいます。
財政面では経常収支比率97.4%(R5=2023年度)。これは「毎年必ず払う経費(人件費・扶助費・繰出金など)で、ほぼ一般財源が埋まってしまう」状態を意味します。平たく言えば、“自由に打てる新規手”の余地が薄い。兵庫県の集計でも、養父市は97.4%と明記されています。
> 人が減る。高齢者が増える。固定費は重くなる。
だから“未来への投資”がしにくくなる。
これは、市役所の問題ではなく構造の問題です。
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2|同じ時期に寿命が来る——インフラの「一斉老朽化」という現実
いま日本中の自治体で、**インフラの“同時多発的な老朽化”**が進んでいます。
国土交通省の公表値では、**道路橋は2040年までに約75%が「築50年超」**に達し、水道管・下水道管も2040年には「4割弱/3割超」が築50年超へ。つまり「まとめて古くなる」フェーズに私たちは確実に入っています。
ここで大事なのは、「まだ壊れていないから大丈夫」ではないこと。壊れる前に直す“予防保全”ほど、長期のコストを抑え、事故や長期断水・道路寸断を避けられます。けれど財源や人材は限られる。後回しにすると、ある日ドンと請求書が来る——しかも一斉に、が現実です。
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3|上下水道のリアル:使う人が減るのに、直す費用は重くなる
養父市の下水道「経営比較分析表(R5)」には、こう書かれています。
人口減の影響で施設利用率が低下。
将来は統廃合の検討が必要。
老朽化対策・統廃合をすれば債務(借金)比率が一時的に上がる可能性もあるため、投資規模の見極めが課題。
これが何を意味するか。
「使う人が減る」→1人あたりの維持コストは割高に。
「古くなる」→更新や耐震化にお金が要る。
つまり**“量を減らしながら質を保つ”ための再設計**が避けられません。
ここで誤解しがちなのが「料金を上げる=悪」の図式です。値上げは簡単ではありませんが、**“値上げ+更新・統廃合+漏水・故障の削減”**をセットでやらないと、ある日突然「長い断水」「トイレが使えない」に直面します。それは医療・介護・子育て世帯、障害者、そして事業者にとって生死や雇用に直結します。
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4|移動の自由は、生活の自由——公共交通の綱渡り
高齢化・過疎、運転手不足のなかで、「移動権」をどう守るか。養父市はデマンド型交通(やぶくる)や自動運転バスの実証など、手を打ち始めています。
やぶくる:電話予約でエリア内を移動できる“自家用有償旅客輸送”。**電話で「やぶくるお願いします」**からはじまる、地域の足。
自動運転バス(実証):R6(2024)~R7(2025)にかけて、JR八鹿駅—道の駅ようか但馬蔵でレベル2・無料の実証。運転者同乗で安全を見ながら、将来の持続可能な移動の形を模索しました。
これは次の一手へ進むための“地ならし”です。
予約のわかりにくさ、乗継ぎの不便、アプリ化・電話受付の改善、料金体系、福祉との連携(通院・リハ・買い物・介護支援)といった細部の磨き込みが、**生活の“可動域”**を決めます。
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5|当事者目線で見えてくる「詰みポイント」
日常の移動・通院・買い物・排泄・入浴・服薬——。
これらはひとつでも止まれば、生活はすぐに立ちゆかなくなる工程です。たとえば——
汚水が流れない:在宅介護や人工肛門・導尿など医療・福祉ニーズに直結。衛生環境の悪化は生命線。
長期の断水:透析・経腸栄養・服薬管理、赤ちゃんのミルク、発達・感覚特性のある子のルーティンにも甚大。
移動手段が途切れる:通院・買い物・役所手続きはもちろん、仕事と学びの継続性が失われる。
だからこそ、上下水道と公共交通は“福祉”そのもの。この意識が都市計画・財政・福祉・教育・防災の一本線にならない限り、支える側の疲弊と利用者の孤立が同時進行します。
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6|「選ばないと、選ばれてしまう」——合意形成の技術
問題は技術より合意形成です。やることは見えているのに、先送りが最大のコストになる。
見える化:どの配管が古いか、どの地区の漏水率が高いか、どの路線が“効いている”か。
優先順位:命に直結/生活復旧に必須/経済を回す幹線から先に。
公平性:**逆進性(弱い立場ほど不利)**が出ない料金・サービス設計。
説明責任:**「なぜ、いま必要か」「何と引き換えか」「何が良くなるか」**を、数字とストーリーで語る。
ここまでやってはじめて、値上げや再編、統廃合、運営の更新(民間連携や広域化)に**“納得感”**が生まれます。
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7|「できる理由」も、もう揃っている
暗い話ばかりではありません。養父市は制度を使うのがうまい。国家戦略特区で農業分野の規制改革を活用し、企業参入や6次産業化に挑んできました。数字だけでなく「やってみる」土壌がある。この突破力を、生活インフラにも。
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8|5つの具体策——“明日”から回す、暮らしのエコシステム
① インフラ更新の“見える化”を一気に
配管・施設の地図化/点検履歴/更新優先度を市民にも開く。
断水・漏水・道路陥没などのヒヤリハットを匿名通報できる導線を一本化。
「予防保全」を“安く済ませる賢い選択”として広報。
② 料金と支援の“面”設計
段階的な料金見直し+低所得・障害・子育て・介護世帯への精緻な緩和。
漏水対策・無収水削減(検針・スマートメーター・減圧・ピンホール補修)の投資を「上げ幅の抑制」とセットで説明。
事業統廃合・広域連携の効果試算を毎年更新し、途中で方針転換できる“逃げ道”を設計。
③ 移動のラストワンマイルを“使い勝手”で最適化
やぶくるの予約・配車UI(電話+Web/アプリ)を誰でも使いやすく。
病院・薬局・スーパーと時間割連動した“目的地発想”のダイヤ実証を恒常化。
自動運転バスは幹線接続の補助輪として、**福祉・防災(避難所アクセス)**との連携を強化。
④ 生活インフラ×福祉の“クロス補助”
上下水道・交通の再編に伴う通院・介護・リハ・就労の代替手段費用を、ピンポイントに支えるクーポン/助成。
住民発の**買い物リレー(共同購入・共同配送)**を、商工会・福祉・学校と結び、小さな物流を起こす。
⑤ 「参加のしやすさ」を制度に埋め込む
パブコメや説明会をアーカイブ+要約で公開。
図解・短尺動画・読み上げ対応を標準装備。
「反対も、代替案」で受け止める場をオンラインで常設。
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9|あなたにお願いしたい**“3つの行動”**
1. まず知る:市の財政状況資料集(R5)を一度眺めてください。見慣れない表でも、固定費が重いことと繰出金の存在が見えてきます。
2. 声を出す:上下水道・交通のアンケートや説明会に参加し、「ここが困る」「こうすれば助かる」を具体的に伝えてください。
3. 使って支える:やぶくる・実証便・路線の**“試し乗り”**を。使われるサービスだけが残るからです。
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10|それでも、ここで生きていきたい
暮らしのインフラは、いちど壊れてから直すと、人も経済も深く傷つきます。だから壊れる前に直す。
そのために、少しの値上げや再編の痛みに向き合う。弱い立場にしわ寄せしない仕組みを、みんなで作る。
それができるまちは、子どもも、高齢者も、障害のある人も、働く人も、安心して暮らせます。
> 選ばないと、選ばれてしまう。
「先送り」という選択が、いちばん高くつく時代です。
私は、ここで暮らし続けたい人の一人として、生活の言葉でこの議論を続けます。
この記事が、共感から“行動”へ進むための火種になれば幸いです。
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参考・根拠(主要データ)
養父市の人口・高齢化率(R7/2025時点)や財政指標を含む市公式プレゼン資料。
兵庫県資料:**経常収支比率(R5/2023年度)で養父市97.4%**の掲示。
国交省:社会資本の50年超比率の将来見通し(道路橋・水道・下水道ほか)。
養父市下水道 経営比較分析表(R5):人口減で施設利用率が低下、統廃合検討等の自己分析。
兵庫県(但馬地域公共交通)資料:自動運転バス実証の概要(八鹿駅—道の駅、レベル2、無料、実施体制)。
やぶくる(自家用有償旅客等運送)の利用案内(電話予約など)。
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※この記事は、公開情報と行政資料をもとに生活者の視点で再編集したものです。もし誤りや更新点があれば、遠慮なくお知らせください。次回の更新で反映します。




















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